投稿日時 2016-03-09 19:55:53 投稿者 URA このユーザのマイページへ お気に入りユーザ登録 |
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それは今から一年とちょっと前、雪がチラチラと舞う時期のお話--。 英雄学園学園長サンタ・サンは、魔王復活の影響を調査するため、暇を見つけては各地に遠征し、現地調査を行っていました。 学園から遠く離れた「眠れる森」と呼ばれる深い樹海に訪れたのも、その調査のためです。 日も落ち、調査も一段落したサンタは、樹海の外に建てたキャンプへと戻ってきました。 そこで、出る時とは雰囲気が少し変わっていることに気付きます。 「ふむ、どうやら賊がおったようじゃのう。これは夕飯前にラブ&ピースせんといかんようじゃ、久しぶりに腕がなるわい! --しかし、なぜじゃ? 食料も、貴重品も盗られてはおらぬようじゃが……」 僅かに荒らされた形跡があるのに、賊が盗みそうな物が何も盗まれていないことに、サンタは丸太のような首をかしげます。 「むむっ! これか! --しかし……なぜじゃ?」 ようやく盗まれた物を確認するも、その内容にまたも首をかしげるサンタ。 賊が盗んだのは、サンタが学園から持ってきていた、お気に入りの大きなマクラでした。 「なぜ、マクラなんかを?」 たかがマクラ、されどマクラ。 「あれが無いと寝付きが悪くていかんわい」 賊の痕跡を追って、サンタは樹海を進みます。 幸か不幸か、はたまた賊がまぬけなのか……逃走中、マクラがわずかに裂け、中の羽毛が点々と足取りを教えてくれたのです。 日も完璧に落ち、辺りは全くの闇。月の光も届きません。 カンデラの僅かな明かりを頼りに、羽毛の導きのまま、サンタは樹海の奥へ奥へと進みます。 いつの間にか雪が降っていたのか、白い羽毛の他に、辺りの植物を雪の粉が飾っています。 光は届かずとも、雪はどこからとも無く風が運んでくるようです。 「うぅう、寒いわけじゃわい。こんな日は早く帰って一杯やりたいぞい!」 屈強な両腕をさすり、寒さに一瞬震えるサンタ。 その耳に、遠くから微かにこすれる葉音が届きました。 「--なじゃ? 近づいてくる……のう」 獣か、はたまた魔物か。 木々をかわし、草をかき分け、蛇行しながらもサンタの方へと向かってきます。 「どれ、お迎えの準備をしとくかのう」 足元にカンデラを起き、拳をゆるく握って自身の正面で構えます。 微動だにしないその風格は、まるで樹海の大木のよう。 「フゥーー……」 細く、長く息を吐き、襲撃者を待ちます。 冷えきっていた指先が熱をおび出したころ、襲撃者はサンタの直ぐ先まで迫ってきました。 「くる!」 飛び出してきたのは白い影。 暗い樹海には似つかわしくない白い魔物でした。 魔物は何度も跳躍し、サンタの動きをうかがうように飛び跳ねます。 茂みから枝、枝から茂みへとまるでゴムボールの用に。 「ほぉ、中々の速さじゃな」 白い魔物が跳躍し、今までで一番高い枝を蹴った時、更なる速度でサンタの顔面へと迫ります。 「--じゃが」 白い魔物がサンタの顔面へと肉薄する寸前。 「わしに当てるには後、秒速300メートル足りんのう!」 白い魔物はいとも簡単にサンタの分厚い手のひらでとらえられてしまったのでした。 「ダイ!?」 「ほぉ、これは珍しい」 「ダイ! ダイダイ! ダイダイダイダイ!」 サンタに葉の付け根を握られて、ジタバタと暴れる白い魔物……一見ダイコンのように見えました。 「ホワイトマンドラゴラ、冬の季節には地中に潜って冬眠しておるはずじゃが……」 「ダイ!」 「どうやら、この先に理由が有るようじゃな」 視線の先は点々と続く羽毛の足あと。 「ダイ! ダイダイダイダーイ!」 それを察知したのか、ホワイトマンドラゴラはいっそう足掻きを強くします。 「そう暴れるでないわい、まるでわしが虐待しておるようじゃぞい。なに、そう恐れる事はない。ちょこっとラブ&ピースを教えてやるだけじゃからなあ」 「ダーーーイーーー!」 「ここが終点かの?」 羽毛の知らせる先は、巨大なもみの木のうろに続いていました。 さっきまでグッタリしていたホワイトマンドラゴラが、再び暴れだした事で確信します。 大人10人でも抱えきれないその大木に、大人1人がギリギリくぐれる程の空洞、その入口を「よっこらせ」と腰を屈めてくぐります。 「ちょいと失礼するぞい」 暗い空洞の中をカンデラの柔らかな光が包みこみ、見えてきたのは……ボロボロに朽ちた、何か獣の皮を丸めた物。 他にも、元は白い綿花だったろうと思える茶色い塊。そして-- サンタのお気に入りのマクラと-- それを抱き、カタカタと寒さに震えて眠る-- 褐色の肌を持つ幼児でした。 身につけている物は、ボロボロの産着だったろう布1つ。 「ダイ! ダイダイ!ダーイー!ダ--」 「どうしてこんな所に童子(わらし)がおるんじゃ!」 付け根が千切れんほど暴れるホワイトマンドラゴラの声を掻き消すほど--それほどの大声がもみの木の空洞を揺らします。 サンタの一瞬の動揺からか、ホワイトマンドラゴラをつかむ手が緩み-- 「ダイ! ダイダイ!」 --すかさず抜け出したホワイトマンドラゴラ。 幼児に駆け寄る姿をサンタはただ見ている事しかできません。 サンタの方を向いたまま、背中で幼児を押すことで、何とか起こそうとしているようです。 そのかいあってか、サンタの大声でも目覚めなかった幼児が、眠いまぶたをこすりながら上体を起こし-- 一瞬赤い瞳を開いたかと思うと、カンデラの光が眩しかったのか直ぐに目を細めてしまいました。 「赤い瞳に、悪魔の耳か……」 「ん……んー?」 「すまんのう、起こしてしまって。お邪魔しておるよ」 サンタは出来るだけ驚かさないよう、腰を落とし視線の高さを近づけると、優しい声音で話かけました。 そして着ていた上着を脱いで幼児に掛けてやります。 「のう、童子。なんでこんな所におるんじゃ? 親はどうした?」 「んー……んー?」 幼児はさっぱり分からないようす。 首を傾げては戻し、また反対に傾げます。 「わしの名はサンタ・サンと言う。童子の名はなんと言うんじゃ?」 「サンタ・サン?」 小首をかしげる幼児に、サンタは自分を指さし、もう一度名前を尋ねます。 「そう、サンタ・サン。わしの名前じゃ。童子の名前はなんと言うんじゃ?」 「んー……ウ!」 「ウ? それが童子の名前か?」 「ウ!」 首をかしげる事無く、はっきりと言うその口調から、それが幼児の名前で有ることは間違いないようでした。 「そうか……これでは親の事もわからんじゃろうな」 せめて名前でも分かれば、親を探し当てる事も出来ただろうにと考えていたのです。 「ならば強引にでも……」 ウをこの樹海から連れ出そうか、そんな事を思案していると、不思議な現象に目が止まりました。 どこからともなく、丸い葉の蔦や、木の根がウの周りに集まって来ています。 まるでウを守ろうとしているように。 それを手に絡めとっては、まるで戯れるようにするウ。 「ウは木々に……いや、この樹海の植物に愛されておるんじゃな」 「んー?」 これでは強引にと言うのは無理じゃわいと、小さくごちるサンタ。 なら他の切り口は無いかと、思案しながら視線を彷徨わせると、先ほど目に止まった皮の塊に目が止まりました。 この寒いのに、体に掛けること無く、丸めて使っていたようです。 そして、今もしっかりと抱いているマクラの事。 「のうウよ。マクラは好きか?」 サンタはウの抱くマクラを指さしながら言います。 「抱きマクラは好きか?」 言葉の意味が伝わるよう。太い腕で自身の胸をギュッと抱きしめ、やいやいと体を左右に振ります。 その仕草が伝わったのかどうか、実際のところは不明ですが--。 「好き? ん! ウ、抱きまくら、好き!」 サンタと同じように、マクラを両腕で抱きしめて、やいやいと体を左右に捻ります。 「そうか! 好きか! なら話は速い、ウよ!」 パンと膝を両手で打ち、しゃがみ込んだ姿勢から中腰ほどに体を起こします。 「わしに付いて来んか? もっと良い抱きマクラが見つかるかもしれんぞい?」 そう言って、分厚い手のひらをウに向けて差し出さいます。 「んー? ん! 抱きまくら! ウ、好き!」 「そうか! なら共にいこう! 英雄学園へ!」 「英雄学園へ!」 「ダイーー!?」 びっくり仰天のホワイトマンドラゴラをよそに、分厚いサンタの手を取りウは立ち上がります。 そして一年後--ウは「眠れる森のウ」と言う名前をサンタ・サンから貰い、召喚学科の一年生となったのでした。 ようこそ、英雄学園へ! ~~。 「ダイ!ダイダイ!」 (そんな事も有ったわね) 「うん。ウーはあの時の分厚い手、今でも覚えてます。ウーもいつかはああなれるでしょうか?」 「ダイ!」 (あんなムッキムキになりたいの!?) 「いつか、あの温もりを送れる人間に、ウーもなりたいのです」 「ダイ……」 (理想を持つことは悪く無いわ……でも、現実も見なくっちゃね?) (下で現実のウが見れるよ! でも閲覧注意だからね!) (http://14381.mitemin.net/i184935/) ■◇■◇■ 許可を得て借用いたしました。 ~すぺしゃるさんくす(敬称略)~ 英雄学園学園長 サンタ・サン http://12021.mitemin.net/i182652/ 許可を頂いたまうす様(仮)様有難うございました。 |
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